大阪地方裁判所 昭和42年(行ウ)8号 判決 1974年4月05日
原告 山門喜久蔵
被告 住吉税務署長
訴訟代理人 上野至 外七名
主文
一 被告が昭和四〇年一〇月七日付でした原告の昭和三九年分の所得税の総所得金額を金一一八万一、九〇〇円とする更正のうち、金八八万九、六二一円をこえる部分ならびに過少申告加算税一万四、三〇〇円の賦課決定のうち右総所得金額超過分に相当する部分は、いずれもこれを取消す。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の各負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判<省略>
第二当事者の主張
一 請求原因
1、2、3<省略>
4 しかし、右更正ならびに過少申告加算税賦課決定(以下本件処分という)には次のような違法事由がある。
(一) 被告は、原告が所属する住吉商工連合会の組織を破壊する目的をもつて、原告の実情に即した調査を何らなすことなく不当な推計に基づき本件各処分をしたのであり、これは結社の自由、勤労者の団結権を侵害しようとする不当な他事考慮に基づく違法な処分である。
(二) 原告の昭和三九年分の総所得金額は確定申告のとおりであつて、本件各処分は原告の所得を過大に認定した違法がある。
よつて、本件各処分の取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1のうち原告が住吉商工連合会の会員である点を除くその余の事実および2・3の各事実は認めるが、4の事実については次のとおりである。
三 被告の主張
1 被告は公平な課税をするよう調査に尽力し、過少申告者に対しては、それを是正するため本件各処分をしたのであつて、原告主張のような目的は有していなかつた。
被告は、原告の本件係争年分所得について、昭和四〇年七月から八月にかけ数回にわたり原告および原告方使用人浜本守生と面接調査したが、原告は、材料費その他の経費に関する納品書、計算書、賃金台帳あるいはノート等に基づいて、原告の申告所得額の算出根拠を説明する等、通常可能な協力すらすることなく、本件係争年分の事業経費の金額を主張しただけであつたので、被告は、やむなく、原告の店舗の状況等の外形的資料および原告と同業種の他の納税者の所得率等に基づき、原告の所得を推計したところ、原告の申告所得額と異なつたので、本件各処分をしたにすぎない。
2(一) 原告の本件係争年分総所得金額は一二〇万二、三七五円(その算定根拠は次のとおり)であり、その範囲内でなされた本件各処分は違法である。
(1) 収入金額 三五四万二、一〇〇円
(2) 一般経費 七六万八、六三五円
(3) 特別経費 一五七万一、〇九〇円
雇い人費(内訳は別表2、但し( )内は除く)
一五四万八、〇〇〇円
地代家賃 二万三、〇九〇円
所得金額は、右(1) の金額から(2) 、(3) の合計金額を差引いた、一二〇万二、三七五円である。
なお、右は別表2記載の従業員森本俊彦の従事期間を四か月として算定したものであるが、仮りに、一二か月であつたとすると、原告の収入金額は三六七万八、〇三〇円、一般経費は七九万八、一三二円となる。
(二) 右のうち収入金額および一般経費は次の方法により算定した。
大阪国税局長において同局管内(大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県)八三税務署のうち大蔵省組織規定上種別「A」とされている。都会地の業者を掌管している、四三税務署管内の理容業者で昭和三九年分所得の実額調査を行つた三八事例を集計したところ、平均年間収入金額はそれぞれ従事員一人当り四五万三、一〇〇円、理容椅子一台当り四九万四、二〇〇円であり、一般経費率は二一・七パーセント(以下これらを実調率という)であつた(内訳は別表1のとおり)。ところで昭和三九年当時、原告方理容店の従事員数は原告および別表2の従事員氏名欄記載の者とで平均八名、仮に、森本俊彦の従事期間を一二か月とすれば八・六名であり、理容椅子台数は七台であつたから、実調率従事員一人当り収入金額と原告方従事員数との積、および、実調率理容椅子一台当り収入金額と原告方理容椅子台数との積を算術平均して、その収入金額を算出し、これに実調率一般経費率を乗じて一般経費を算出した(計算は、別表の1、2、3、4。但し、右森本の従事期間を一二か月とした場合は別紙の1´、2´、3´、4´)。
3 右の実調率に基づく収入金額、一般経費の推計は、次の諸点からみて合理的である。
(一) 右実調率の資料は、前記実額調査の対象となつたほぼ全域の税務署から提出されたものであり、青色申告者については実地調査、白色申告者については収支実額調査を行つたもののうち、昭和三九年中の中途で開閉業した等の特殊事情にある者、ならびに、一般的な率による推計に基づき課税された者および不服申立ないし訴訟係属中のものを除く、いわば、納税者が異議なく課税の正当性を承認した、個人経営者全部の資料である。
そして、従事員数は、その能力にかかわらず経営者本人を含めた従事員につき、暦年従事者一人を単位として年換算入員を算定したものである。従つて資料の収集選択には何らの恣意も加つていない。
なお、右実額調査の対象とした者は、原告と同様、都会地で事業を営む同業者であるが、必ずしもいわゆる類似同業者とは限らないので、各調査対象の間でその事業収益に巾があつたとしても当然のことであり、事業実績による取捨選択をせず、悉皆計算したことが実調率の合理性の根拠である。
(二) 理容業においては、客数に応じて、これを最も効率的にさばけるように、従事員数および理容椅子台数が決定される関係にあり、客数の多寡は立地条件、客筋等の諸条件により決まるものであるから、右諸条件の全てが従事員数および理容椅子台数に顕現する。また、理容料金は通常協定料金が定められており、収入金額は客数に対応するから、従事員数および理容椅子台数に基づき前記のとおり収入金額を算出すれば、一般的にはそれが当該事業者の収入金額に最も近似するものとなる。
(三) 原告の経営規模は、従事員数、理容椅子台数からみて、全国の理容業者中でも上位一一パーセント内に含まれる中級店に属し、店舗は、国道沿いの商店街に準ずる地域と住宅街に併行した地域に位置し、その立地条件も良く、従事員の構成も技術の優劣により、刈込み準備、刈込み、フケ取り、顔そり、シヤンプー、マツサージ、仕上等の理容業務を能率的に分担するに適し、理想的な経営状態にあつた。
なお実調率の資料中、原告と同じ大阪市内で事業を営む同業者二〇名、あるいは、右のうち原告と従事員数、理容椅子台数の近似する者の従事員一人当り、理容椅子一台当りの各年間平均収入金額および所得率は、いずれも前記実調率の結果を上まわつている。
従つて、原告の所得の推計に実調率を用いることは合理的である。
四 被告の主張に対する認否および反論
1 被告の主張1は否認する。
2 被告の主張2の(一)のうち、(3) の地代家賃、および、別表2のうち森本俊彦の従事期間を除く事実は認め、その余は否認する。
右森本は、本件係争年中一二か月間、原告方従事員として勤務していたので、その給料合計は三一万二、〇〇〇円、賄費は六万円である。なお、山門均、小山繁生、伊森邦治、島加代については、従事期間中の理容学校月謝各五〇〇円を、原告が支払つた。
3 被告の主張2の(二)のうち、原告方理容店の従事員と、森本俊彦を除く他の者の従事期間および理容椅子台数は認め、その余は否認する。
4 被告の主張3は否認する。
実調率による推計は、次の諸点からみて合理的でない。
(一) 右推計の根拠は、本件各処分時のものではなく、本件各処分の適法性立証には適さない。本件各処分は、被告が相当と考える一、二名の同業者を引き合いに出して推計したものである。
(二) 実額調査の対象となる者は、被告がその申告に対し疑問を抱いた者であると考えられ、大多数の申告どおり被告に認容された業者に比して問題者というべく、実調率の基礎資料は同業者の一部にすぎない。その上、右資料中には原告の属する住吉区の例がなく、実額調査の対象たる納税者を被告の意図する目的に従つて選択した疑いを除きえない。
(三) 実調率の資料によれば、関西地区の同業者間にあつても、従事員一人当り、理容椅子一台当りの各収入金額には二倍以上の開きがあり、同じ理容業であつても従事員数、椅子台数と収入金額との間には必ずしも相関々係はなく、また一般的業態にある者でも、具体的立地条件によりその収入は異なる。
従つて、全体の平均値を考えるなら、大阪府下あるいは近畿一円の同業者全員の平均値が示されるべきであり、さもなければ、被告主張の同業者を個別的に明らかにし、具体的な立地条件の異同を比較したうえで、推計をなすべきである。
(四) 原告方従事員中、理容師資格検定試験に合格した資格のある理容師は原告、浜本、音無、森本の四名で、他は資格がなく雑事のみをしていたうえ、有資格従業員も経験に乏しく、原告は経営者として雑事に追われ、また高令(当時五九歳)であつたため一人前の仕事は不可能であつた。昭和三九年当時、従事員は四名で足りたが、従事員の交替を考慮して人数をふやしていたにすぎず、原告方従事員を八名として計算するのは不当である。
また、原告方店舗は、府道一三号線の傍で播磨町交叉点より南へ約四〇〇メートル府立病院より北へ一〇メートルの所にあり、車が通過するばかりで人通りは少なく、右病院内にも理容店がある。
それに、原告方の西側は学校等の多い帝塚山の邸宅地で、商店街、市場、駅前等のような飛び入り客を期待し難く、昭和三九年以降、付近の千葉理容店、筒田理容店が閉店しているところからみても、立地条件は悪い。
従つて、実調率による推計を原告に適用することは、合理的でない。
第三証拠<省略>
理由
一 請求原因1のうち原告が住吉商工連合会の会員である点を除くその余の事実および2・3の各事実については当事者間に争いがない。
そして<証拠省略>によれば、原告は右会員であることが認められる。
二 そこでまず、被告が住吉商工連合会の組織を破壊する目的で本件各処分をしたか否かについて検討する。
<証拠省略>によれば、原告は白色申告の個人理容業経営者であること、昭和四〇年八月ころ被告職員が原告の本件係争年分所得の調査のため原告方を訪れたが、原告は、帳簿等の備え付けも、その基礎となる領収書等の資料もなかつたので、これらを提示することなく、一日当りの収入金額を概括的に主張し、ポマード、石鹸、櫛等の購入先は決まつていないと説明したにとどまり、従事員数等外形的事実以外に関してそれ以上の説明協力をしなかつたことが認められ、右事情のもとでは被告が原告の所得の実額を調査把握することが至難であつたことが推認できるから、被告が推計により原告の本件係争年分所得を算定したことは適法であり、ほかに被告が本件各処分をするにつき、原告主張の他事考慮をしたことは、本件全証拠によつても窺うことはできない。
三 そこで、原告の本件係争年分総所得金額(事業所得)につき判断する。
1 収入金額および一般経費について、
(一) 本件における収入金額および一般経費の算定に関する争いは、専ら、被告主張の実調率を原告の所得の推計に適用することの当否にかかるのであるが、これについては、第一に、右実調率を算出する基礎資料の一般性およびこれを収集選択する過程の無恣意性、第二に、事業実績を比較する指標として、従事員数、椅子台数を採用することの妥当性、第三に、実調率を具体的に原告に適用することの相当性が問題となるので、以下順次検討する。
なお、原告は、本件実調率による推計が本件各処分に用いられた推計方法と異なり、本件各処分後に収集された資料に基づくから許されない旨主張するが、課税処分取消訴訟で処分の実体的違法が争われているとき、審理の対象となるのは客観的な租税債務の存否、範囲であるから、課税標準を認定するための資料は当該処分時において、被告に判明していた事実であると否に拘わらず、原則として主張立証することができると解すべきである。
(二) <証拠省略>によれば、本件実調率の資料は、大阪国税局訟務官室からの要請にもとずき、税務訴訟の証拠資料とするため、大阪国税局長が、昭和四三年七月三日ころ同局管内のA級署、即ち、大阪市内、神戸市内の各税務署およびその周辺の一定規模以上の税務署、合計四三税務署に対し、同年八月二〇日までに作成提出を要請した調査資料のうち、右要請に該当する調査実例を有していた別表1署名欄記載の二一署から提出された三八事例の調査票であり、その調査結果は別表1のとおりであること、右A級署管内の納税者は大阪国税局管内納税者の約八〇パーセントを占めること、右調査票は原告と同業種の個人経営者で、本件係争年分所得税について一般的な率により推計課税をされたものを除き、帳簿書類の実地検討をした青色申告者三〇名、および、帳簿、原始記録等によつて実額調査を行つた白色申告者八名を対象とした調査結果であり、調査票作成時に不服申立中ないし訴訟係属中の者および調査年中の事業継続者以外の者は除かれていること、また、右調査票作成の際の従事員数の記載は家族、雇い人の区別をしつつ、最終的には双方を合算した年換算延べ人員により、理容椅子台数も調査対象期間中に購入されたものについては、その旨記載するよう配慮されていることが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
右によれば、右調査票は、訴訟資料とすることを予定して収集されたものではあるが、その対象は既に調査を終えていた納税者の過去の事実であり、特殊事情にある納税者は調査票を作成すべき対象から除外され、調査票を提出した各税務署の地域も特に偏在してはいないこと、そして、従事員数および椅子台数は、ともに調査対象期間の延べ数が客観的、機械的に確認できる方法で換算されていること等からみて、調査対象の選択およびその結果の収集過程に被告の思惑や恣意が介入する余地は少く、調査実例数からみても、これらの結果である調査票を集計した平均値は、大阪国税局管内における都市部の理容業者の平均的数値を示すものと解される。
もつとも、前掲各証拠によれば、原告の居住する住吉区および浪速区等の二一署は前記調査該当事例がないとして調査票の提出をしていないこと、また実額調査等の対象となる者は、納税者の中でも少数であることが認められ、この限りでは、実調率の基礎資料が網羅的でないことは明らかである。しかし、右事実のみから右調査票が特殊な業態、地域にある納税者に関するものと推認するこことはできず、前記理解を動かすには足らない。
(三) <証拠省略>によれば、昭和三九年当時の大阪市内理容業者は概ね、営業時間が午前九時から午後八時まで、理容料金は大人の調髪が三五〇円であつたが、理容業者としては、営業実績が向上すれば、従事員数と椅子台数を客数に応じて増加し、これが低下すれば、従事員数、椅子台数を減少させる傾向にあつたことが認められ、右によれば、理容業において業績を反映する指標としては、シヤンプー、化粧品、薬材等の消費量も考えられないではないが、これらは帳簿書類等の提示、納税者の協力がない場合その消費量の確定がほとんど不可能であるばかりか、客一人当りの使用量等について画一性を求めるのが困難であり、業績を反映しつつその調査に画一性、客観性を求めうる点では従事員数および椅子台数がより合理的と解される。
そして<証拠省略>によれば、従事員に有資格者のみならず、適当な数の無資格者をも含めた未熟練者を雇用し、技術の優劣、能力に応じて、雑用あるいは理容の仕事を分担させた方が、徒らに有資格者を増員するよりも、雇人費を減少させることとなりむしろ理想的な経営状態であることがそして<証拠省略>によれば、理容業の経営者としては営業実績に応じて、適切な人数および技術構成の従事員を確保しようとするものであるが、業界における従事員の雇用関係が元来流動的であり、かつ、昭和三九年当時は従事希望者が豊富であつたので、それが比較的容易にできたことが認められ、右によれば、従事員に関しては、理容師資格の有無、技術の巧拙もさることながら、両者の適切な比率を保つことが経営上は重大であり、一般的には、経営者は適正な人員構成の従事員を獲保しようとし、家族などによる小規模た営業は別として、多数の従事員を雇用している場合には、通常右の状態に近い人的構成で営業していたとみられるから、能力にかかわらない従事員数を業績を反映する指標とすることも必ずしも許容されないではないであろう。
しかし、従事員一人当りの収入の多寡は一般に従事員の能力の如何、端的にいえば理容師資格者と無資格者とにより差異があり、一営業において後者の前者に対する比率が高くなれば雇い人費が減少するとともに従事員一人りの収入金額も少なくなるのが通例であると考えられるから、当該営業における右比率が本件実調率の基礎となつた営業の平均比率より高い場合には、実調率従事員一人当り収入金額によつて推計すると、その営業の収入金額を過大に算定する結果にたる蓋然性が強いわけであり、右推計は許されないというべきである。
また、<証拠省略>によれば、従事員数が理容椅子台数に満たない場合には、全ての椅子を括用するのに円滑を欠き、その台数に応じた収入金額を得るのが困難であることが認められる。試みに別表1の三八事例中従事員数が椅子台数に満たない一一例の椅子一台当り収入金額を求めると四一万八、五〇〇円となり、本件実調率のそれよりかなり低額である。したがつて実調率理容椅子一台当り収入金額に基く推計を適用するためには、当該営業において理容椅子台数以上の従事員数が確保されていることが必要ということになる。
論ずるまでもなく、
係争年度の営業実績を、その年中の理容椅子台数および従事員延べ人数により比較推定することが、合理性を有するということは、理容椅子台数、従事員数が営業収入と完全に対応することまでを意味するものではなく、単に平均的な基準を示すうえで、これらが合理的指標であるというにとどまり、理容椅子一台当り、従事員一人当りの収入金額が、各調査対象業者の立地条件により異なることは明らかであるから、理容椅子一台当り、従事員一人当りの平均的基準金額に基づく推計を当該営業者に適用するためには、更にその立地条件が業者の一般水準より劣つていないことが必要と解される(なお立地条件が劣れば営業規模も小さくなるのが通常であろう)。
(四)(1) 原告方の本件係争年中の理容椅子台数が七台であること、および原告がその理容業に一二か月従事したほか別表2の従事員氏名欄記載の者がこれに従事し、そのうち森本俊彦を除く他の者の従事期間が同表記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、右森本は昭和三九年中は一二か月間原告方で従事していたこと、そして従事員中の有資格者は原告、右森本、浜本守生、音無惟孝の四名で他は無資格者であつたことが認められ、これを左右するに足りる証拠はないから、別表2欄外の計算どおり、本件係争年中の原告方従事員数は、原告を含め八・六名となる。
<証拠省略>によれば、七大都市において、昭和四四年八月一日現在で、理容椅子を七台以上有する理容施設は、全体の上位一二パーセント以内に属し、理容施設の一施設当りの従事員数は平均五・四八名であり、昭和三九年当時もこれとさしたる差異はないこと、そして別表1記載の三八事例中でも、理容椅子を七台以上有する者は、一七事例で上位約四五パーセントを、従事員八・六名以上の者は一三事例で上位約三四パーセントを占めることが認められ、右によれば原告経営の理容店は物的人的規模においては、七六都市および本件調査対象事例中少くとも平均以上に属することが推認できる。
また、<証拠省略>を総合すれば、原告経営の理容店は国道沿いのバス停留所から一五ないし二〇メートル離れた、住宅街と商店街の中間に位置し、裏は邸宅街であることが認められる。しかし、<証拠省略>によればいわゆる飛び込み客のある場所も良い立地条件にあるといえるが、理容業の客は大半が固定客であつて、住宅街と商店街の併行している場所は、立地条件としては良好であることが認められる。<証拠省略>によれば、大阪市住吉区万代東四丁目の千葉理容店は昭和三五、六年頃、同区万代西二丁目の筒田理容店は昭和四一年頃いずれも閉鎖したが、両店とも立地条件は悪くなく、その閉鎖は立地条件によるものではないことが認められる。
以上の事実に徴し、原告経営の理容店の立地条件は都市部同業者の一般水準より劣つてはいなかつたと認めるのが相当である。
(2) しかし、<証拠省略>によれば昭和四四年八月一日現在の七大都市における従業者数のうち無資格者の占める割合いは二六・七六パーセント程度であり、昭和三九年当時もこれとさして異ならないことが認められる。そして本件実調率の基礎となつた営業における右割合を明らかにする資料はないが、右率と著しい差があるとは考えられない。
ところが、原告方における従業員の構成は前記のとおりで、無資格者の占める割合は五三パーセントをこえている。したがつて前記(三)に記した理由で、実調率従事員一人当り収入金額によつて原告の収入を推計することは相当ではないというべきである。
(3) ところで、<証拠省略>および原告本人は、原告が昭和三九年辰己ビルに支店を開設し、従事員の一部を同支店で働かせた旨供述するが、<証拠省略>によると、右供述は誤りであつて、右支店開設の時期は昭和四〇年であることが認められる。したがつて原告の理容業は昭和三九年には一店舗において椅子七台、従事員数はその台数をこえる八・六名で行われたことになる。そして<証拠省略>によれば原告経営の理容店における昭和三九年当時の理容料金は大多数の同業者と同一であつたことが認められ、他に原告の本件係争年分所得を本件実調率の理容椅子の台数から算出した収入金額および一般経費率により推計することを不合理とする事情は窺われない。
(五) 別表1によれば、理容椅子一台当りの平均収入金額四九万四、二〇〇円、一般経費率は二一・七パーセントであることが認められ、原告方の理容椅子台数は七台であるから、実調率にもとづく原告の収入金額は三四五万九、四〇〇円、一般経費は七五万〇、六八九円となる(計算は別紙の2および5)。
2 特別経費について、
地代家賃および、別表2のうち森本俊彦の従事期間を除く事実については当事者間に争いがなく、右森本の従事期間は前記認定のとおり一二か月であるから、雇い人費は別表2欄外のとおり一七九万六、〇〇〇円となり、原告主張の山門均等四名に対する理容学校月謝の支給については、これを裏付ける資料が全くなく、原告本人尋問の結果および原告が弁論終結直前に至つてはじめて右主張をしたことに徴すると、原告は右山門等に対し別表2の給料以外に月謝を支給してはいないことが窺われる。
従つて、特別経費の金額は一八一万九、〇九〇円となる。
3 前記認定の収入金額から一般経費および右特別経費の合計額を差引いた所得金額は八八万九、六二一円となる。
四 結論
以上の事実によれば、原告の本訴請求は、本件更正につき総所得金額八八万九、六二一円をこえる部分および過少申告加算税賦課決定のうち右超過部分に相当する部分の取消を求める限度で理由があるから認容し、その余の部分は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 石川恭 鴨井孝之 富越和厚)
別表1、2及び別紙<省略>